「両方持ってるから安全」——平行チャネルの中で買いと売りを両建てで回転させる手法を紹介する動画を見かけたので、実データで検証しました。

手法(動画の骨子)

平行チャネル相場が前提で、 1. チャネル下限で買い2ロット 2. 上限到達で買いを半分利確+売り2ロットを新規(両建て状態) 3. 下落確定でさらに買い残りを決済 4. 下限で売りを半分利確+買い2ロットを新規 5. チャネルを外にブレイクしたら即全決済

というルールで、チャネル回転を繰り返します。

検証方法:両建て版と「同じポジションを最小ロットで再現した版」を同時計算

ローリング線形回帰チャネル(120本、±2σ)を使い、11通貨ペア×日足/4時間足×12.5年分(2014〜2026年)で検証。ここでのポイントは、両建て版と、まったく同じネットポジションの推移を最小ロットだけで再現した純ポジション版を同時に計算し、差分=「両建てにすることで追加でかかったコスト」を実測したことです。

結果:両建てはコストを増やすだけ

構成 両建て版の損益 純ポジション版の損益 両建てによる追加コスト
日足・理論上のコストのみ +294.1% +296.7% -2.6%
日足・現実的なコスト(スプレッド2倍+スワップ換算) +23.7% +62.1% -38.4%
4時間足・理論上のコストのみ -165.9% -151.5% -14.4%

数理的な事実として、「買い1枚+売り2枚」の損益は「売り1枚(ネット)」の損益と完全に一致します。両建ては損益を1円も改善せず、スプレッドを二重に払い、両方のポジションにスワップがかかる分だけ現実コストで12.5年で-38.4%分をそのまま失っていました

土台のチャネル回転自体も、現実コストでは12.5年で+23.7%(年利換算で2%弱)に対し、最大ドローダウンは-313%(証拠金を大きく超えるレベル)。年別に見ると2014〜2019年は6年中5年が赤字で、利益のほとんどは2021〜2023年の一方向の値動きに集中していました。

なぜ「安全に見える」のか

両建ては「常に含み損と含み益を両方持っているから安全」という印象を与えますが、これは心理的な錯覚です。ネット(正味)のポジション=実際に負っているリスクは、普通の片張りと完全に同じです。含み損を「見えなくしている」だけで、リスクそのものを減らしてはいません。

機関投資家が行う為替ヘッジ(外貨建て資産の為替リスクを打ち消す目的)と、同一通貨ペアを両方向に持つだけのFXの両建ては、目的も効果もまったく別物です。

まとめ

「両方持っているから安全」という言葉を見たら、まず「ネットポジションは実質どちらに寄っているか」を確認する癖をつけると安全です。退場しないための資金管理は、両建てではなく損切りとロットで作るものです。

※本記事は当ラボがPythonで再現・検証した結果です。検証条件:11通貨ペア 日足/4時間足(2014〜2026年・12.5年)、両建て版と純ポジション版を同時計算し差分を実測。特定の動画・個人を誹謗する意図はありません。