「10年・複数通貨で12種類のインジを924通り検証した結果、ランダムより勝てたのはたった2つだった」——そんなYouTube動画を見かけました。もう一本、同じ人の動画で「金(ゴールド)は同じ色のローソク足が2本続くと、3本目も70%以上の確率で同じ色になる」という、完全に機械化できるルールが出ていました。
機械化できるなら測れます。いつも通りEA化して実データで検証しました。結論から言うと、2つの主張は両方とも再現せず、むしろ逆でした。ただし「なぜそう見えたのか」まで数字で特定できたので、そこが今回の本題です。
主張① 「勝てるインジは、たった2つ」
動画で名指しされていた2つは、順張り型のオシレーターの組み合わせでした(具体的なパラメータも公開されていたので、そのままの値を使いました)。
検証条件は動画の作り手と揃えました。主要6通貨ペア × 12種のシグナル × 4種の決済ルール = 264通りを、2016年からの実ティック(bid/ask実スプレッド込み)で、次の足の頭でエントリー(先読みなし)、コストは往復1回だけ、という保守的な条件で回しました。
| 名指しされたインジ | 動画の主張 | 私の実測 |
|---|---|---|
| 順張りオシレーターA(ある通貨) | 期待値 +2.0pips | 粗利 +0.28 / コスト 1.33 / ネット -1.05pips |
| 順張りオシレーターB(別の通貨) | 期待値 +1.2pips | 粗利がそもそもマイナス(ランダム売買以下) |
Aは「値動きの向きは当てているが、その優位性(+0.28pips)が実測コスト(1.33pips)を払えない」パターン。Bに至っては、コストを一切ゼロにしても粗利がマイナスで、ランダムにエントリーした場合と区別がつきませんでした(コストを外して粗利で見る、の考え方)。
さらに、選定に使った期間(2016〜2021)で有意だった24通りを、その後の期間(2022〜)で測り直すと、生き残ったのは0件でした。偶然でも1件ちょっとは残るはずなのに、1本も残らない。これは典型的な過去に最適化しただけのカーブフィッティングの挙動です。
「924通り検証して14個が勝った」の正しい読み方
ここが一番大事です。動画の作り手は「924通り試して、有意に勝てたのは14個だった」と説明していました。
でも、統計の初歩に当てはめると、この14個は『多すぎる』のではなく『少なすぎる』んです。
でたらめなコイン投げを924回やっても、5%水準の検定なら 924 × 0.05 = 約46個が「偶然、有意」に見えます。つまり本当に何の優位性もなくても、46個くらいは勝ったように見えるのが普通。実際に出たのが14個なら、それは期待値を大きく下回っている=「ランダムより良いインジは1つも無かった」という意味になります。
念のため、264通り全体を多重検定の補正(円環シフトで帰無分布を2万回作る方法)にかけると、一番マシなセルでも補正後のp値は0.187。有意なものはどこにもありませんでした。
皮肉なことに、その動画の本当の値打ちは「勝てた2つ」の方ではなく、「ゴールデンクロスもMACDも単体では無意味だった」という消去法の結論の方にあります。そこは私の実測とも一致しました。
主張② 「陽線が2本続けば、3本目も70%以上が陽線」
こちらは金相場の話。実ティックから作った1分足 約162万本(2022〜2026年)で数え上げました。
| 主張 | 実測 | サンプル数 |
|---|---|---|
| 陽線2本 → 3本目も陽線 70%超 | 48.96% | 399,619 |
| 陰線2本 → 3本目も陰線 | 48.52% | 393,387 |
| (参考)値幅をシャッフルした偽の相場 | 49.93% | — |
70%どころか、実測は48.96%。むしろ50%をわずかに下回ります(連続のあとはごく弱く反転する)。高い勝率が語られるとき、まず定義を疑う——今回もその通りでした。
「70%」という数字がどこから来たのか、特定しました
陽線が2本続いた直後の約40万件について、「次の足がどうなるか」を色々な定義で全部当ててみたところ、主張の数字にピタリと一致する定義が見つかりました。
| 測り方 | 該当率 |
|---|---|
| 次の足が陽線(終値 > 始値)= 言葉どおりの意味 | 48.96% |
| 次の足の終値が、今の足の始値を上回る | 74.57% ← 主張の「70%超」に一致 |
| 次の足の高値が、今の足の高値を上回る | 65.96% ← もう一つの主張「60%超」に一致 |
| 次の足で一度でも +5pips 触る | 29.22% |
つまり主張の「70%」は、「次の足が陽線になる確率」ではなく、「次の足が、今の足の始値より上で終わる確率」を測ったもの。似ているようで全く別物です。前者は方向を当てる話ですが、後者はほぼ「大きく下がりさえしなければ達成」で、値動きの優位性とは関係ありません。
しかも、上がると言われても次の足で +5pips 取れる確率は29.22%しかない。「触ったか」と「利益として引けたか」は違う——これは検証でよく出る測定バグの典型です。
実際、この方法をルール通りにEA化して測ると、勝率は主張の9割どころか28〜31%で、コストを引く以前の粗利の段階でマイナスでした。
まとめ
- 「924通り試して2つが勝った」→ 統計的には偶然の期待(約46個)を下回るので、正しくは「勝てるインジは無かった」
- 名指しされた2つのインジも、実測ではコストを払えない or ランダム以下
- 「陽線2本→3本目も70%陽線」→ 実測 48.96%。70%の正体は「陽線か」ではなく「下がらなかったか」をこっそり測った数字
- どちらも、検証する側が正直でも、結論の読み方や測り方が一箇所ずれるだけで逆の結論になる
この2本を作った人は、決して悪意でデタラメを言っているわけではなく、検証そのものは真面目にやっていました。だからこそ「自分でも数字を確かめられる状態」を持っておくことが効きます。まずは実ティックで自分でも検証してみる手順から。
※本記事は当ラボが公開情報のみをもとにPythonで再現・検証した結果です。検証条件:主要6通貨ペアの実ティック(2016〜2026年)/金は実ティック由来の1分足 約162万本(2022〜2026年)、いずれもbid/ask実スプレッド込み。特定の個人・チャンネルを誹謗する意図はありません。